広瀬台はり院|コラム|局所循環不良に対するアプローチ論

広瀬台はり院

コラム記事

最終更新日:2025年10月29日

局所循環不良に対するアプローチ論

痛みの原因の一つに、「局所循環不良」があります。いわゆる「血流量が少ない状態(虚血状態)」です。虚血状態では、「痛みの物質(サブスタンスP)」が放出されることで「痛みの悪循環(局所患部で「虚血―痛みの物質放出」を繰り返す状態)」が生じたり、神経の不栄養による「しびれ」や「痛み」といった神経症状が現れたりします。

よく患者さんから、「厚着をすれば良いですか?」「ホッカイロを常に貼っておけば良いですか?」「長く湯船に浸かっていれば良いですか?」と質問を受けます。確かに、温めること自体は悪くありません。しかし、人間の身体には「生体恒常性(ホメオスタシス)」という「一定に保とうとする仕組み」が存在します。そのため、体表から温められると、身体を冷やそうとする反応が起こり、逆に冷やされると温めようとする反応が起こります。つまり、外からの刺激に対して常にバランスを取ろうとするのが「人体の不思議」です。

そのため、ホッカイロを当てたり、長湯をしたり、単純に厚着をしただけでは、思ったほど効率よく身体が温まるわけではありません。むしろ「低温火傷」や「脱水」、さらに「靴下の重ね履きによる転倒」といった別のリスクを生むこともあります。そのため、「より効率よく安全に身体に作用する方法」を検討する必要があります。 ここで重要なのが、「体表からのアプローチは、どこまで到達するのか?」という視点です。

たとえば、ぎっくり腰の原因となりやすい「大腰筋(だいようきん)」は、背骨の前面に位置しており、足のしびれ・痛みと関係がある「坐骨神経(ざこつしんけい)」は、お尻の筋肉の下にあります。このように深部にある組織は、「体表からの温熱刺激や徒手刺激によるアプローチは難しい」と考えられています。

一方、鍼治療の利点は、こうした深部まで直接アプローチできる点にあります。鍼が刺入されると、わずかな組織損傷が起こり、その修復過程で局所の血流量が増加し、循環不良が改善されて、「痛みの物質の洗い流し」や「組織の栄養・修復」が同時に行われていきます。さらに、鍼刺激は、脳や自律神経を介して全身の血流と代謝のバランスを整える働きもあります。

高齢の方は、若年層に比べて「筋肉量の低下(血流量の低下)」や「身体の応答性の低下」により、「回復がしづらい」と考えられています。筋肉は、単に身体を動かすだけでなく、「血液を蓄える力(回復の土台)」や「熱を生み出す力(代謝の源)」を持つ、重要な要素です。傷の修復過程で、様々な細胞が損傷部位に集まっていきますが、血流の乏しい部位は回復しにくい傾向にあります。また身体の応答性が低いと、鍼などの刺激に対しても反応が起こりにくくなり、より難治化しやすい傾向にあります。

「筋肉量」と「身体の応答性」を維持・向上させるためには、「適切な食事」と「適度な運動」が欠かせません。適切な食事は、「身体づくりの材料」となるだけでなく、消化・吸収の過程で「食後産熱(しょくごさんねつ)」を起こし、身体を内側から温めます。また、適度な運動は、筋肉を動かすだけでなく、ホルモン分泌を促して血流と代謝を整え、回復力を高めてくれます。

単に「痛いところにホッカイロを貼る」「とりあえず長湯をする」「季節を問わず厚着をする」といった短絡的な対処ではなく、「局所循環不良への適切なアプローチ(鍼など)」と「身体の内側から整える工夫(食事・運動)」を組み合わせることが大切です。逆に、「漫然としたイメージ先行型のケア」では、遠回りになってしまう可能性があります。「どうせ温めとけばなんとかなる」というわけではないのです。

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