コラム記事
最終更新日:2025年10月16日
顔面神経麻痺に対する通電の問題点
顔面神経麻痺への通電について、持論を述べていきたいと思います。まず結論から言うと、私の考えは、ガイドラインのとおり、「通電はダメ絶対(禁忌)」としています。そのため、当院では通電は行っていません。また、低周波美顔器の使用も控えるようにお伝えしています。
通説のように、顔面神経に通電を行うと、神経再生が促進されるため、回復は早まります。その反面、顔面神経の性質上、隣接する神経へと混線してしまう可能性が飛躍的に高まります。この現象を、迷入再生による過誤支配(神経が迷い込んだことによる間違った支配)と言います。すると、口を動かすと目が閉じてしまったり、飲食時に涙が止まらなくなったりといった「病的共同運動(びょうてききょうどううんどう、病的に連動して複数の動きが出てしまう現象)」が出現し、日常生活に多大な不快感を残すこととなります。これが、通電が禁忌と言われている理由です。
実は、通電により回復が促進されると、「外見上はより早く治るように見える」ため、一時的に患者側・医療者側ともに満足感は高くなります。この満足感が高いという点が大きな落とし穴だと私は考えています。早期に動くことは、必ずしも良好な回復のサインではありません。病的共同運動は、ある程度回復がみられた後に突然あらわれるものであり、過度な回復促進は、結果として患者利益を損ないます。いわゆる「患者・医療者のジレンマ」とも言えるでしょう。
神経の損傷具合は、ENoG検査(誘発筋電図検査)で評価します。この検査は、非麻痺側との比較により損傷度や予後を判定するもので、値が低いほど重症とされています。ENoG検査で40%を下回る場合を「中等症以上」とし、「軸索変性・神経断裂を伴う状態(神経自体がダメになってしまっている状態)」と考えられています。ENoG検査で40%以上の場合(軽症例)は、軸索変性・神経損傷を伴わず、「一時的に機能を低下した状態」と考えられています。
一般的に、通電による影響を受けるのは、「中等症以上」と考えられています。軸索変性・神経断裂を伴う場合は、必然的に新たな神経再生が必要となるため、病的共同運動の生じるリスクがあると考えるわけです。逆に、神経損傷を伴わない場合は、新たな神経再生は不要なため、迷入再生が起きず、病的共同運動は起きないと考えられています。
では、ENoG検査で40%を超える場合(軽症例)は、「通電は100%ノーリスクで大丈夫」と断定することが出来るでしょうか?そして、軽症例は高い確率で治癒するため、「そもそも通電療法が必要なのか?」と考えるほうが妥当です。そのため、「どんな理由であっても通電療法は不要」と言うのが私の持論です。
実際の臨床では、「過度な神経再生を促進させない(≒抑制的、遅延的)」ことを目的とした方針をとります。一般的には、中等症以上では3~6ヶ月程度から表情筋の動きが出始めると言われており、重症度にあわせたケアを実施していきます。個人差はあるため、結果的に当初の予想よりも早期に回復することはありますが、早く回復させればよいというのは完全な間違いです。とくに重症例(ENoG検査10%未満)の場合は、回復の可能性があっても、一年以上の経過を辿ると想定されます。
顔面神経麻痺の回復過程において重要なことは、「早く動き始めること」ではなく、「確実に正しく再生させていくこと」です。よく初期段階の見た目のみで判定を行う場合がありますが、明らかな軽症例を除いては、正確な損傷度の評価は出来ません。とくに急性期は外見上は症状が重く見えることがあります。そのため、発症後10~14日後にENoG検査を受けるようにしましょう。