コラム記事
最終更新日:2025年10月18日
慢性疼痛から生じる運動恐怖
みなさんは、「運動恐怖(kinesiophobia)」という現象をご存知ですか?一見すると「運動があまり好きではない人」「スポーツをしないタイプの人」といった印象を受けるかもしれません。しかし、この場合は、単に運動が好きか嫌いかを指すわけではありません。運動恐怖とは、「ある動作をしたときに痛みがあった」という記憶が残っているため、回復後も無意識にその動きを避けてしまう状態を指します。
例えば、痛みが軽減した後でも足がすくんでしまったり、足を引きずり歩幅が狭いままになってしまったりします。こうした「動かすことへの恐れ」は、やがて行動全体にも広がっていきます。その結果、恐怖心から必要のない治療を続けたり、市販の痛み止めを常用したり、就寝時までコルセットに頼ってしまう方もいます。これは、恐怖から生まれる依存反応の一つと考えられます。
この運動恐怖の問題点は、痛みを取り除くだけでは回復が進まないことです。痛みの記憶によって身体の動きが抑えられ、やがて不活動(動かなくなる)状態へとつながっていきます。
このような場合、リハビリテーション(運動療法)が推奨されますが、患者さんが「その運動をするのが怖い」と感じるため、リハビリ自体を拒むことがあります。そのため、鎮痛と運動療法に加え、認知行動療法(CBT)の併用が重要とされています。「痛みがすでに脅威ではない」ということを、同じ動作を通して少しずつ再確認していくプロセス(運動療法+行動認知療法)が、恐怖からの回復に大きく関わります。
運動恐怖というと「自分には関係ない」と思われる方も多いかもしれません。しかし、私たちの身近にも似た反応があります。たとえば、久しぶりに運動をして筋肉痛が出ると、しばらく体を動かすのを控えたくなるでしょう。とくに運動初心者であれば、「これは悪い痛みかもしれない」と不安に感じることもあるはずです。大胸筋の筋肉痛であれば、胸の痛みから心臓発作を連想してしまう人もいるかもしれません。このように、運動恐怖は身近でも起きているのです。
運動恐怖による不活動化のリスクは、多岐に渡ります。例えば、関節運動を避ければ関節可動域制限や関節拘縮が生じるでしょう。活動範囲が狭まれば社会的な孤立が生じるでしょう。時に、焦燥感や自信喪失に繋がってしまったり、高齢者であれば、「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」や「サルコペニア(筋肉減少症)」が生じ、「フレイル(虚弱:要介護の前段階)」に近づいてしまうかもしれません。
もし痛みが長引くようであれば、「自分はどこか運動を避けていないか」「何かに頼りすぎていないか」を一度振り返ってみてください。もしかしたら「運動恐怖」が現在の痛みの原因になっているかもしれません。