コラム記事
最終更新日:2025年10月23日
膝関節症に対する鍼治療の限界
膝関節症に対する鍼の効果について、私なりの考えを述べていきたいと思います。膝関節症で鍼治療を検討する方も少なくないと思いますが、まず結論から言うと「膝関節の変形が重度な場合、鍼の効果は限定的です。」
一般的に、鍼治療の対象となるのは比較的軽症〜中等症のケースです。この段階では、関節の構造的破壊(骨棘形成・軟骨消失・骨端変形)はまだ顕著ではなく、むしろ関節包や周囲筋、滑膜など軟部組織の炎症や緊張が痛みの主因となっています。そのため、鍼によって局所循環を改善し、筋緊張や滑膜炎を軽減することで、症状の緩和や可動域の改善が期待できます。
一方で、「膝の曲げ伸ばしが難しい(関節可動域制限あり)」、あるいは「つかまり歩行しかできない(行動制限あり)」ような症例では、すでに関節構造の破壊が進行している可能性が高く、鍼を含めた保存療法全般においても、改善の余地は限られてくると考えます。鍼灸師であれば「鍼をもっと推してしかるべき」と揶揄されるかもしれませんが、現実的な立場から言うと「無理なものは無理」です。もちろん、改善傾向の場合は推奨しますが、進行例では満足度は低い印象です。
従来は、保存療法を続けても改善が見られない場合、そのまま人工関節置換術などの手術へ移行するケースが多く見られました。しかし近年では、関節内注射やPRP(多血小板血漿)療法など、手術の前段階で検討できる治療法も選択肢として広がりつつあります。
私の考えでは、「重度の膝関節症は、寝たきりや要介護のリスクを高める要因となる」ため、注意が必要です。不必要に保存療法だけでなんとか天寿を全うしようとするよりも、膝関節症の進行度に合わせて、無理のないステップアップを検討したほうが、「日常生活動作(ADL)」や「生活の質(QOL)」の維持・向上につながると感じています。一般的に、人工関節置換術などの手術は、術後の回復期間が比較的短く、(一部の方を除き)高齢者でも安全に受けられる治療とされています。また、人工関節の耐用年数を考慮すると、若年層よりも高齢層のほうが適しているとも言われています。
鍼灸治療は、痛みの軽減に役立つこともありますが、構造的な変化を元に戻すことはできません。極端に手術を恐れるあまり、長期間にわたって保存療法だけを続けると、結果的に歩行能力を失い、寝たきりに至る可能性もあります。また、通院や施術を繰り返すことで、時間的・金銭的な負担が大きくなることも見逃せません。私が強調したいのは、「手段が目的になってはいけない」ということです。状態に合わせて現実的に判断し、最適なタイミングで治療を選ぶことが何より大切だと思います。