広瀬台はり院|コラム|顔面神経麻痺に対する「とりあえず触るな」という誤解

広瀬台はり院

コラム記事

最終更新日:2025年10月30日

顔面神経麻痺に対する「とりあえず触るな」という誤解

末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺・ラムゼイハント症候群など)に対し、亜急性期以降(腫れや痛みが落ち着いた段階)から「フェイシャルマッサージ」が推奨されています。とくに、セルフケアとして、毎日ご自宅で実施することが大切です。しかし残念ながら、「顔を動かしてはいけない、顔に触るな」といった声もよく耳にします。ただし、これは大きな誤解です。

たしかに「顔を動かしてはいけない」というのは半分正解です。動かし方によっては、顔面神経の過度な興奮を生じさせてしまい、後遺症誘発の原因となり得ます。言葉で「動かす」とは言っても、①誰かに動かしてもらう「他動運動(たどううんどう)」、②自ら動かす「自動運動(じどううんどう)」に分けることができ、両者のメカニズムも大きく異なります。そして、後者のうち「(強引な・不適切な)自動運動」が「やってはいけない方法(禁忌・非推奨)」となります。では、「なぜだめなのか?」をメカニズムから考えてみましょう。

他動運動は、「筋肉の収縮が起きていない状態(関連する神経からの入力が入っていない≒神経の興奮なし)」です。自動運動は、「筋肉の収縮が起きている状態(関連する神経からの入力が入っている≒神経の興奮あり)」です。顔に力を入れずに、優しく指腹で顔をマッサージする方法は「他動運動」となり、「顔面神経の興奮(表情筋の収縮なし)」が生じません。そのため、安全な方法の一つと考えることが出来ます。では、「電気刺激のように外力で動かす方法」はどうでしょうか。

一見すると、電気刺激は、他動運動に見えますが、運動神経を興奮させて筋収縮を引き起こすため、「生理学的には自動運動と同じ(神経の興奮あり)」と考えることが出来ます。また、電気刺激は、強い動きを顔全体に引き起こし、神経の「迷入再生(めいにゅうさいせい)による過誤支配(かごしはい)を誘発しやすいため、「病的共同運動(関係ない部位まで連動してしまう後遺症)」のリスク要因の一つとされています。そのため、「通電療法は禁忌」とされているわけです。

フェイシャルマッサージを早期から行う主な目的は、「動かない表情筋が硬くなるのを防ぐこと」にあります。さらに回復期以降では、麻痺側の「つっぱり・ひきつり」や非麻痺側の「筋疲労」の改善にも有効とされています。動かしづらい部分には、フェイシャルストレッチを加えることもあります。このように、「フェイシャルマッサージ」や「フェイシャルストレッチ」を適宜取り入れることで、後遺症の予防・軽減をしていきます。必ずしも「動かしてはいけない」わけではなく、「正しい方法でケアを行うこと」が重要なポイントです。

本稿では、詳しく触れませんが、表情筋の動きが出始めた後は、「鏡を用いた表情筋トレーニング(ミラーバイオフィードバック法)」も加えたケアをしていきます。これは「自動運動」となりますが、細かいルールに従って実施をしていくことで「後遺症の予防・軽減」や「正しい表情筋運動の再学習」が期待できます。

このように、顔面神経麻痺に対するケアは非常に複雑なため、「中途半端な理解で触るくらいなら、なにもしないほうがまだマシ」と揶揄されるほどです。これが「とにかく触るな・動かすな」という声の正体だと感じています。もちろん、「何もしない(放置すること)」も間違った認識です。言い換えると、「天命に任せて、後遺症対策を放棄すること」と同じです。そのため、必ず専門家による適切なケア・指導を受けることが大切だと考えています。また、「患者教育・コンプライアンス(ケアの意図を理解し、適切な自己管理が行えるようになること)」も同じように大切だと考えています。

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