コラム記事
最終更新日:2025年11月06日
神経痛と鍼のひびき感の関係性
坐骨神経痛などの神経痛に対して、「神経近傍刺鍼(関係する神経を刺激する手技)」を行います。その際に、刺激部位から末梢にかけて、「触電感(電気が流れるような感じ)」を強く感じることがあります。坐骨神経への刺激であれば、坐骨神経の走行に沿って、足裏や足先まで刺激が到達する感覚があるはずです。これは、「鍼のひびき(鍼感)」や「得気(とくき)」と呼ばれる指標の一つである「麻(しびれる感じ)」に相当します。
刺鍼時に触電感が強いと、鍼灸鍼による神経損傷を疑う方もいるかもしれません。しかし、鍼灸鍼は、注射鍼とは違い、組織を切り裂くような形状をしておらず、しなやかで柔らかい構造です。そのため、神経を損傷する可能性は極めて低いとされています。触電感の原因は、神経自体にある可能性が高いと考えます。
神経痛が生じている場合、その神経は「感作(かんさく)」を起こし、「外からの刺激に対して過敏に反応しやすい状態(神経過敏)」になっています。これが、強い触電感を感じる原因の一つです。刺鍼時には、この「触電感」とそれに伴う「関係する筋肉の収縮」を目安に刺激を行います。鍼通電療法(パルス)を実施する際も同様に、上記の現象を確認しながら施術を行います。
坐骨神経痛であれば、坐骨神経が臀部から下肢後面を走行するため、走行に一致した経穴(ツボ)を使用します。例えば、臀部(秩辺:ちっぺん、環跳:かんちょう)、殿溝の中央(承扶:しょうふ)、大腿後面の中央(殷門:いんもん)、膝窩の中央(委中:いちゅう)、などが坐骨神経刺鍼点となります。
神経近傍刺鍼を行う目的は、「過敏になっている神経の反応性を正常に近づけること」です。鍼刺激によって神経の周囲の血流が改善すると、「痛みの原因となる物質(炎症性メディエーター)」が排出されやすくなり、「神経が刺激に反応しすぎている状態(神経過敏)」が落ち着いていきます。その結果、痛みを感じ始めるラインである「閾値(いきち:しきい値)」が元の正常な状態へ戻っていくわけです。
鍼の感じ方そのものが、神経の状態をそのまま反映していると言われています。そのため、神経過敏の状態が改善されると、鍼刺激の感じ方も変わります。「あれ、最初より痛くない、、、」と感じるようになるはずです。逆に、症状が強い場合は、鍼刺激の感じも強い場合が多いですが、これも正常な反応です。「下手な鍼だから痛い」というわけではありません。それだけ神経の状態があまりよくないということです。
脊柱や椎間板の変性など、構造的な変化が背景にある場合でも、神経が過敏になっている状態を和らげることで、痛みの出方は安定しやすくなります。骨や関節の形そのものをすぐに変えることはできませんが、「症状をうまくコントロールして生活の質(QOL)を保つこと」も非常に大切です。鍼治療は、そのための保存療法として有用だと考えています。
最初は「刺激が強い、、、」と感じても、一定期間は継続してみてください。適切な刺激が繰り返されることで、神経過敏は少しずつ落ち着いていき、本来の反応性に戻っていくはずです。