広瀬台はり院|コラム|慢性痛は「治りが遅い急性痛」ではない

広瀬台はり院

コラム記事

最終更新日:2025年11月20日

慢性痛は「治りが遅い急性痛」ではない

勘違いされやすいですが、慢性痛は「治りが遅い急性痛」ではありません。

慢性痛の定義は、「痛みが3カ月以上持続するもの」とされています。ただし、慢性痛が必ずしも多くの人が想像するような「急性外傷(けが)」に伴う急性痛の延長線上にあるわけではありません。実際には、はっきりした急性痛がなくても慢性痛は成立します。どちらかと言えば、「これは慢性痛だろうな、、、」と徐々に明らかになっていくイメージです。

急性外傷は、損傷組織が治癒すれば自然と痛みは消えますが、慢性痛は単なる怪我の痛みとは異なり、「傷が治っただけでは痛みが消えない点」に特徴があります。これは、慢性痛が「①侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう:怪我や炎症による痛み)」や「②神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう:神経損傷による痛み)」、「③痛覚変調性疼痛(つうかくへんちょうせいとうつう:痛みの強さと身体的異常が釣り合わない痛み)」などが複合的に作用して生じる痛みだからです。また、慢性痛に悩む患者のほとんどは「心理社会的要因(不安やストレス、思考のクセなど)」を抱えていると言われています。

はっきり言うと、痛みが3カ月以上持続するというのは、「おかしい」「異常」なことです。急性外傷・急性痛であれば治っていてもおかしくない期間です。それが、「心理社会的要因(不安やストレス、思考のクセなど)によって、脳が「痛みの警報」を鳴らし続けてしまっているため、痛みを大きく表現したり、痛みを脅威として扱ったり、痛みへの注意が強すぎたりといった行動が生じてしまうのです。

私の臨床経験でも、「①身体の訴えと実際の所見が一致しない場合(身体症状の不一致)」や「②医療者の前では、足を引きづる等の身体表現を見せるが、普段は旅行に行ったり、自転車で遠方から通院していたりする場合(痛み行動)」、「③強い不安・怒り・悲しみといった負の感情が前面に出ている場合(痛みの破局的思考)」、「④短期間に複数の医療機関を頻回に受診している場合(ドクターショッピング)」は、心理的要因の関与を強く感じることがあります。とくに、こうした心理的背景にご本人が気付いていない場合は、痛みを難治化させる大きな要因になると感じます。いわゆる出口がわからないような状態です。また、「本人にとって心理的・社会的な利益(二次的利得)」が無意識に働いている場合は、その行動が習慣化し、問題はさらに複雑化していきます。

ここまで読んだ方は、おそらく「慢性痛に興味があるか、もしくは慢性痛に悩んでいる方」だと思います。そこで、もし後者であるならば、一度ご自身の痛みを見直してみてください。それは本当に「急性外傷の続き」なのでしょうか? 心理社会的な要因が痛みを増幅させている可能性はないでしょうか?慢性痛では「身体の痛み=身体の異常」と短絡的に結びつけてしまうことが多く、そこに大きな落とし穴があります。まずは、痛みの正体を正しく見極めることが、出口を見つける第一歩になります。

では、慢性痛とは何なのか。ここでまず考えてほしいのは、「痛みはゼロでなければならないのか?」という点です。現実には、「痛みが完全にゼロになることが正解」とは限りませんし、年齢を重ねれば、身体のどこかに痛みや違和感のひとつやふたつは自然に出てくるものです。それが本当に生活を脅かすほどの痛みなのか? ゼロにしなければ死んでしまうほどの脅威なのか? こうした視点を欠いたまま「痛みゼロだけを追い続ける」と、かえって痛みへの意識が過剰になり、慢性痛をより複雑化させてしまいます。

慢性痛で本当に大切なのは、「痛みをゼロにすること」ではなく、「痛みに向き合うこと(痛みをコントロールできるようになること)」です。「治ること(キュア)」はもちろん重要ですが、慢性痛ではそれと同じくらい「ケア(痛みとの付き合い方)」が欠かせません。また、治療を継続せず、その場しのぎで治療法を次々と変えることは、一時的な期待を生む一方で、効果を実感できないと強い絶望に変わり、その落差が痛みをさらに強めます。いわゆる「治療ジプシー」の状態です。

最後にもう一度言います。慢性痛は、急性痛とは異なります。そのほとんどは外傷ではないため、炎症性ではありません。慢性痛に対し、漫然と炎症に対する処置をしてもよくはならないのです。痛みの感じ方は「主観的(本人の感じ方によって大きく左右される)」です。これが慢性痛を理解するヒントです。患者さん自身が「なぜ慢性的に痛みを感じるのか?」と言う仕組みを理解することが、必要不可欠なのです。思い込みや自己判断だけで対処しようとすると、かえって迷路に迷い込みやすくなります。まずは、正しい知識を理解・共有し、認識から変えていくことで変化があるかもしれません

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