コラム記事
最終更新日:2025年12月21日
鍼治療における局所反応と全身調整作用
「鍼は局所の血流を改善することは理解できる。でも、全身に作用することには懐疑的だ。」であったり「そもそも全身調整は必要なのか?症状があるところに鍼をすればいいのでは?」と言われることがあります。このように、感覚的に受け入れやすい局所治療よりも、「鍼の全身への効果(全身調整作用)」に疑問を呈されることが多い一方で、鍼治療後によく眠れるようになった等の「不思議な体験」を口にする方も少なくありません。
しかし、全身への効果は、西洋医学的にも説明可能な生理反応であり、メカニズム自体は決して複雑なものではありません。ただし、「どの経穴(ツボ)が、どの反応を決定的に引き起こすのか?」という「穴性(ツボ自体の効果)」については、いまだ検討の余地が残されています。
例えば、「軸索反射(じくさくはんしゃ)」と呼ばれる現象では、鍼刺激を加えた局所で血流が改善し、「発赤(フレア反応:皮膚の一部が赤くなる現象)」が生じます。軸索反射は、「局所反応(脊髄を介さない末梢反射)」であるため、「刺激を受けた部位の反対側に作用しない」という原則があります。そのため、左側への刺激であれば左側、右側への刺激であれば右側の局所のみに反応が生じます。
一方で、鍼刺激が脊髄を通って脳に伝わり、そこから自律神経や内臓機能の調整が起こることで、全身調整作用が生じると言われています。これらの反応は、「体性―自律神経反射」あるいは「体性―内臓反射」と呼ばれるものです。近年では、fMRIなどを用いた研究も行われており、特定のツボを刺激することによって対応する脳領域が活性化される可能性が高いことも報告されています。
このように、「鍼治療における全身調整作用」は、決して摩訶不思議なものではなく、解剖学・生理学的にも説明可能な現象です。そのため、局所のみへの施術にとどまらず、症状や疾患に応じて、適切なツボを選択し刺激していくことが重要になります。局所治療が有効な場面も多い一方で、それだけに固定してしまうと、治療方針を検討するうえでの選択肢が狭まってしまうことがあります。
例えば、痛みが局所に限局している場合であっても、上記の理由を踏まえ、「なぜそこに痛みが生じているのか?」という視点でツボを決めることが大切です。神経痛であれば神経走行上で障害を受けやすい部位を考慮し、脳で神経過敏が生じている可能性が高い場合には、リラックス効果のあるツボを用いるといった考え方になります。このように、症状の背景を踏まえて治療方針を組み立てることが、いわゆる「処方」にあたります。
このような処方の考え方は、鍼治療に限ったものではなく、東洋医学に共通する「身体全体のつながりをみる」という「整体観」にも通じるものです。痛みのある部位だけを切り取って捉えるのではなく、全体の状態や反応を踏まえて施術を組み立てていく点も、鍼治療の特徴の一つと言えるかもしれません。