コラム記事
最終更新日:2026年2月18日
五十肩の可動域制限は必ずしも関節包の癒着とは限らない
五十肩と診断されても、すべてが「関節包性拘縮(関節が硬くなる状態)」とは限りません。五十肩と診断された症例の中には、鍼施術によって短期間で著明に可動域が改善する例があります。このような場合、可動域制限の主因が関節包の癒着ではなく、筋性要因である可能性を考えます。
狭義の「五十肩(凍結肩)」は、関節包などの肩関節周囲の軟部組織が線維化・癒着を起こしている状態を指します。組織自体が物理的に拘縮しているため、鍼施術で即時的に可動域が解除されるとは考えにくく、説明が難しくなります。
筋性の可動域制限をきたす代表的な病態の一つが、「筋筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome:MPS)」です。MPSは、筋や筋膜に生じた過緊張やトリガーポイントにより疼痛や可動域制限をきたす病態です。五十肩と診断された症例の中にも、こうした筋筋膜性要因が関与している場合があります。その特徴の一つが、持続的な筋収縮である「筋スパズム(痙攣)」です。
筋スパズムは、痛みによって筋緊張が高まり、自律神経系の変化や局所循環の低下が関与することで生じます。筋スパズムが起きた状態で動作を行うと、痛みが生じやすく、身体は反射的に筋収縮を強めます。この「疼痛回避反応(痛みを避けようとする体の反応)」によって生じる可動域制限を「防御性収縮(guarding)」と呼びます。この現象は、軟部組織の癒着とは病態が異なります。
こうした防御性収縮による可動域制限が長期化すると、関節運動が減少し、関節包の柔軟性が低下する可能性が高まります。最終的には、凍結肩と同じような病態をきたすわけです。
五十肩の初期は、炎症と痛みが主体となり、痛みによる運動制限が前面に出ます。この段階で適切なケアが行われない場合、炎症の遷延や運動制限の持続により、関節包の線維化や拘縮が進行する可能性が高まります。重要なのは、痛みを我慢し続けることではなく、早期に病態を評価し、適切な対応を行うことです。
また、筋スパズムが主体の場合、鎮痛薬や湿布のみでは十分な改善が得られないことがあります。こうした症例では、「鍼(ドライニードリング:筋筋膜への刺鍼手技)」が、筋スパズムの調整や疼痛軽減などに寄与する可能性があります。
病態を「炎症」と「関節包の癒着」だけで捉えてしまうと、改善が得られないことがあります。病態を見極め、「筋スパズム」や「防御性収縮(guarding)」も考慮したうえで、早期から適切に対応することが重要です。