パーキンソン病
■1)パーキンソン病とは
パーキンソン病は中脳の黒質にあるドパミン産生神経細胞が徐々に変性・脱落していく神経変性疾患です。代表的な症状には振戦(手足の震え)、筋固縮(筋肉のこわばり)、無動(動作が遅くなる)、姿勢反射障害(転倒しやすい)などがあり、進行に伴って歩行障害や自律神経障害、認知機能低下などがみられることもあります。
■2)原因と背景
パーキンソン病は、原因不明の神経変性疾患で、加齢が主なリスク因子とされています。多くは孤発性であり、遺伝性の関与はまれです。病理的にはレビー小体の出現や、黒質のドパミン神経細胞の減少が特徴です。また、初期から認知症や幻視を呈することがあり、レビー小体型認知症(幻視が特徴)との鑑別が困難な場合もあります。脳SPECTによるドパミントランスポーターイメージング(DATスキャン)やMIBG心筋シンチグラフィなどが鑑別に用いられます。
■3)当院の施術内容
当院では以下のアプローチを組み合わせて対応しています:
- 三焦鍼法(中国・天津の特殊鍼法)で全身調整を行う
- 頭皮鍼(舞踏振顫区)で運動障害へアプローチ
- 神経近傍刺鍼(委中:脛骨神経など)で運動障害へアプローチ
- 嚥下障害に対し、関連筋への刺鍼
用語解説:三焦鍼法(さんしょうしんぽう)
<三焦鍼法のイメージ>
解説:三焦鍼法(San Jiao Acupuncture)は、中国・天津中医薬大学第一附属病院の韓景献教授によって開発された「神経変性疾患に対する鍼治療法」です。パーキンソン病・脳血管障害・認知症などに応用されています。三焦気化を促し、全身を調整する作用があり、抗老化にアプローチしやすいと言われています。
用語解説:頭皮鍼
<神経近傍刺鍼のイメージ>
解説:「頭皮鍼(とうひしん)」は、頭の皮膚を通して脳の働きに直接アプローチする治療法です。頭部には、体のさまざまな機能と関係する領域があり、それぞれが「運動」「感覚」「言語」などの脳の働きに対応しています。頭皮の特定部位に鍼刺激を加えることで、脳血流の改善や神経活動の活性化を促します。これにより、脳卒中後の運動まひ、顔面神経麻痺、パーキンソン病、認知機能の低下など、神経系のさまざまな症状の改善が期待できます。
用語解説:神経近傍刺鍼
<神経近傍刺鍼のイメージ>
解説:「神経近傍刺鍼(しんけいきんぼうししん)」は、神経近くに鍼を刺入し、疼痛の緩和や神経機能の回復を図る技法です。例えば、下肢痛を誘発する「坐骨神経(ざこつしんけい)」は、臀部の深部に位置しますが、鍼を用いることでその神経に直接的なアプローチを加えることができます。解剖学的知識に基づき、安全に施術を行うことで、高い治療効果が期待できます。
■4)施術方針
発症初期(ハネムーン期:薬効が顕著な期間)は週1回程度から開始し、オンオフ現象などの副作用が目立ち始めた後は週2回程度に増やしていきます。進行性のため、治すというよりは、症状を安定させてQOL(生活の質)を保ち、ADL(生活動作)を向上を目指していきます。中長期にわたるため、無理のないペースではじめ、外来通院が困難な場合は、往診にて対応をしていきます。
■5)院長からアドバイス
パーキンソン病は徐々に進行していく疾患で、「経過をより緩やかにたどること」を目指します。「何をしても治らない」というよりも、「なるべく急激に悪化しないことが大切」と考えます。
一般的には、初期は「ハネムーン期:薬効が顕著な期間」と呼ばれており、名前のとおり、薬が良く効きますが、期間は3~5年程とされています。ただし、ハネムーン期とは言っても、発症前に比べると、運動機能は低下していることが多く、初期から継続したケアが必要です。
パーキンソン病を発症すると、筋肉が固くなりやすいため、筋肉自体へのマッサージが効果的と考えがちですが、筋肉自体が原因ではないため効果は限定的とされています。実は、「全身を使ったバランス運動(パーキンソン体操、太極拳、ヨガなど)が有効」とされています。特に、歩行時のすくみ足(フリーズ現象)や姿勢反射障害は転倒の原因になりやすく、早期からのバランス訓練や歩行練習が重要です。また、呼吸筋や嚥下機能の低下もおきやすく、発声練習や嚥下リハビリなども必要となります。
パーキンソン病では、自律神経系の機能低下により、便秘や胃排出遅延が起こります。すると、腸管での吸収能が低下し、薬効が不安定となります。鍼治療によって自律神経系が調整されることで、腸管の働きが整い、結果として薬効が安定しやすくなると考えられています。
パーキンソン病は徐々に進行していくため、「悪化したら後から鍼でもすればいい。」という声をよく聞きます。しかし、ふるえ等による過剰なカロリー消費、消化管機能低下などから痩せ傾向となりやすいため、一旦増悪すると、なかなか元の状態に戻ることは難しい印象です。また、進行した後では、出来ることも限られていきます。
昨今では、「パーキンソン病患者の平均寿命は、健常者とさほど変わらない」という話もありますが、これは、健康寿命という観点がすっぽりと抜け落ちているため、注意が必要です。「後から何とかすればよい。」とは考えず、早期から適切なケアをすることが大切です。
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