脳卒中後遺症
■1)脳卒中後遺症とは
脳卒中は脳の血流障害により神経細胞が障害される疾患であり、主に脳梗塞と脳出血に分類されます。発症後には運動麻痺、構音障害、感覚障害、嚥下障害などの多様な後遺症が生じ、患者のQOL(生活の質)に深刻な影響を及ぼします。
■2)原因と背景
運動麻痺や構音障害は、脳の運動野や皮質下構造が損傷を受けることで生じます。脳卒中後の神経可塑性を活かすには、早期のリハビリテーションが重要とされ、再生促進や神経回路再構築が治療目標となります。
■3)当院の施術内容
当院では、以下の技法を後遺症の種類に応じて組み合わせて実施しています:
- 醒脳開竅法(中国・天津の特殊鍼法)による脳機能の改善
- 神経近傍刺鍼による四肢麻痺の改善
- 陽明経への古典的アプローチ
- 頭皮鍼
- 随伴症状へのアプローチ
【参考】関連記事:世界の一流医学雑誌が掲載した脳卒中患者への鍼治療 最新のランダム化比較試験
<三焦鍼法のイメージ>
解説:醒脳開竅法(せいのうかいきょうほう, XNKQ Method)は、中国・天津中医薬大学第一附属病院の石学敏教授によって開発された「脳卒中に対する鍼治療法」です。片麻痺・構音障害・嚥下障害などに応用されています。世界的にも有名ですが、高度な技術が必要とされています。比較的刺激が強いですが、脳神経機能を賦活しやすいと言われています。 <神経近傍刺鍼のイメージ>
解説:「頭皮鍼(とうひしん)」は、頭の皮膚を通して脳の働きに直接アプローチする治療法です。頭部には、体のさまざまな機能と関係する領域があり、それぞれが「運動」「感覚」「言語」などの脳の働きに対応しています。頭皮の特定部位に鍼刺激を加えることで、脳血流の改善や神経活動の活性化を促します。これにより、脳卒中後の運動まひ、顔面神経麻痺、パーキンソン病、認知機能の低下など、神経系のさまざまな症状の改善が期待できます。 <神経近傍刺鍼のイメージ>
解説:「神経近傍刺鍼(しんけいきんぼうししん)」は、神経近くに鍼を刺入し、疼痛の緩和や神経機能の回復を図る技法です。例えば、下肢痛を誘発する「坐骨神経(ざこつしんけい)」は、臀部の深部に位置しますが、鍼を用いることでその神経に直接的なアプローチを加えることができます。解剖学的知識に基づき、安全に施術を行うことで、高い治療効果が期待できます。用語解説:醒脳開竅法(せいのうかいきょうほう)
用語解説:頭皮鍼
用語解説:神経近傍刺鍼
■4)施術方針
発症から回復期の段階では、可能な範囲で高頻度で施術をすることによって脳神経・末梢神経機能の回復を目指します。維持期以降では週1~2回程度を目安に施術を継続していきます。障害の重症度、筋萎縮や関節拘縮の程度・有無によって、経過は大きく異なります。また、再発例の方がより難治化しやすい傾向にあります。
■5)院長からアドバイス
脳卒中は、主に①脳出血、②脳梗塞、③くも膜下出血によって発症します。西洋医学では病態が異なるため、治療方法も異なりますが、鍼治療では、①脳機能を改善、②随伴症状を軽減させるため、病名に関わらず、醒脳開竅法(XNKQ: Xing Nao Kai Qiao)を用います。醒脳開竅法は、高度な技術が必要とされていますが、手技が定量化されており、再現性が高く、一定の治療効果が認められています。当院では、本場と同様の手技を提供しています。
「脳卒中は180日を超えると回復が頭打ちになる」と言われていますが、これはあくまで一般的な傾向にすぎず、全ての人に当てはまるわけではありません。実際には、主体的にリハビリや鍼灸治療に取り組む方ほど、中長期的に見て機能回復が得られる可能性が高い印象です。では、なぜ回復しやすい傾向にあるかと言うと、損傷した脳神経は元通りになりませんが、「動かそう、動かそう」と言う気持ちや行動に対し、他の脳領域が代償的に機能を再構築していきます。これを ニューロプラスティシティ(neuroplasticity:神経可塑性)と言い、機能回復の最も重要なポイントです。
逆に、何らかの理由で麻痺側を動かさないでいると、「脳は、この部分は動かないままでいいや、、、」と勝手に判断し、麻痺側の運動機能は著しく低下していき、廃用へと向かっていきます。これを、「学習性不使用(learned non-use)」と言い、二次性の運動麻痺と考えます。具体的な例をあげると、「ADL(日常生活動作)自立のために、障害されていない健側しか使わない」なども学習性不使用を助長していきます。また、「早期からの安易な利き手交換」も同様です。こういった状況においても、「CI療法(健側をわざと固定し、患側を強制的に使用する方法)」を実施すると急激に回復するといった症例報告も多く、学習性不使用の問題が深刻であることが判っています。
たまに、「鍼をせずに運動療法だけではダメなのか?」という質問もありますが、昨今の脳卒中リハビリでは、「鍼治療と運動療法が一体となっているサービス」が多く、併用が推奨される傾向にあります。鍼治療は、強い刺激(瀉法)によって脳神経や末梢神経を活性化させるのに適していますが、運動機能の再学習には直接的には関与しません。そのため、「神経系の準備を整えることで、運動療法の効果を高める」、いわば「ブースター(加速装置、回復促進剤)」としての役割も期待されているのです。
脳卒中の後遺症に対しては、「自然に良くなるのを待つ」のではなく、神経可塑性を活かしたケアを地道に積み重ねることが大切です。鍼治療(醒脳開竅法)を受けただけで、すぐに動けるようになるわけではありませんが、鍼刺激によって土台を整え、「一日10分でも麻痺側を動かそうとしてみる」といった小さな行動が、機能回復への第一歩となります。
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